今回も、前回に引き続き、タカの仲間のご紹介です。
その名は「チュウヒ」。
チュウヒの驚くべき顔の構造や、狩猟方法、そして、名前の由来と新説まで、ご説明したいと思いますので、読んでみて下さい。
チュウヒについて
チュウヒ(タカ科)Circus spilonotusは、全長雄48㎝、雌58㎝の猛禽類です。
北海道と本州の一部で局地的に繁殖しますが、そのほかの地域では冬鳥として主に低湿地の、広いヨシ原にすみます。
チュウヒは、羽ばたきと滑空を繰り返しながらヨシ原を低く飛びます。
滑空するときは翼を浅いV字型に保っています。
チュウヒの狩猟方法
チュウヒはヨシ原のシンボルバードとして君臨します。
エサはノネズミや他の野鳥、それに魚類なども食べます。
ヨシ原を擦るように飛びながら、地上または地上近くにいる小動物を発見すると急停止してホバリングするか、急落下して足でつかみ捕ります。
目で獲物を探すのは他のタカ類も同じですが、チュウヒの場合は目と共に音でも獲物を探します。
チュウヒの顔にはフクロウの「顔盤」に似た羽毛が生えており、他のタカ類と違って、目のあたりが擦り鉢状に深く掘れ込んでおり、衛星アンテナ(パラボラアンテナ)様の構造をしています。
これが、パラボラ集音機のような役目を果たすことで、聴覚と視覚の併用で、より効率よく獲物を捕らえることが出来ます。
さらに耳が他の猛禽類に比べて大きいことで、ノネズミなどの発するか弱い声でも感知することが出来ます。そういった音を感知するために、チュウヒは野を擦るように飛ぶことがあります。
チュウヒの名前の由来
チュウヒの名は江戸時代前期から「ちうひ」として知られていました(注1)。
チュウヒの語源について『山渓名前図鑑・野鳥の名前』(注2)は、「納得のいく説が無い」としながらも、「宙返りするように飛ぶので『宙』と『飛』からチュウヒではないか?」と記しています。
(注1) 菅原 浩・柿澤亮三 (1993) 『図説日本鳥名由来辞典』(柏書房)
(注2)安部直哉・叶内拓哉(2008)『山渓名前図鑑・野鳥の名前』(山と渓谷社)
チチクラゲの新説!チュウヒの名前の由来
なぜなら、他の猛禽類、例えばハイタカ類やハヤブサ類も獲物を狩るときには宙返りするように飛ぶことがよくあるからです。
私はチュウヒの名前について、ノスリとチュウヒの名前が、過去のある時を境に、入れ換わった可能性があると考えています。
また、「チュウヒ」=「宙飛」は、宙返りの意味ではなく、「宙吊り飛翔」の意味で用いられたのではないかと考えられます。ノスリの特徴であるハンギングが、空中で吊られているように、1点で静止している様に見える姿から、「宙飛」と呼ばれたのだと考えています。
一方、「ノスリ」とは「野を擦る」ように飛ぶチュウヒを指していたのではないかと考えています。
ハンギング→羽を広げて、羽の角度を微調整することによって、向かい風の力と推進力を拮抗させ、空中のある1点に停まる飛び方。見えない糸で吊られている様に、羽ばたくこともせずに空中で静止することが出来る。
ハンギングの映像。
名前を取り違えて、のちに修正された事例
因みに、これまで名前を取り違えていた例としては、カワウ(河鵜)とウミウ(海鵜)があります。
明治大正時代から昭和初期にかけて、当時の鳥類学者はカワウの正式和名をウミウとし、逆にウミウをカワウとしていましたが、現在は修正されています。
- カワウ(河鵜)は河と海に見られます。
- ウミウ(海鵜)は海に見られますが、河には見られません。
昭和初期までは、両者の実態と名前が乖離していたため、以後、修正されることになったのでした。
チュウヒとノスリは同環境でもよく見られます。徳島県阿南市の出島野鳥園でも冬季にはこの2種がよく同時観察されています。加えて、両種は大きさも羽色も個体によってはよく似ています。
まして双眼鏡やフィールドスコープの無い時代にあっては、名前の取り違えがあったとしても不思議ではないと考えられます。
まとめ
チュウヒについてのまとめです。
- 滑空するとき、翼は浅いV字型になる。
- 目と音で獲物を探す。顔盤と目の周りの窪みによって、パラボラアンテナのように集音する。
- ノネズミ等の音を感知するため、野を擦るように低空飛行する。よってチュウヒは、ノスリ(野擦り)が本当の名前だろう。
- 一方、ノスリはハンギングが得意なため、「宙吊り飛翔」=「チュウヒ(宙飛)」が本当の名前ではなかろうか。
- チュウヒとノスリの名前が、取り違えられていると考えられる。
次回は、アトリです。