こんばんは、漫画原作者のヲヲクラゲです。
今回は起承転結の「転」について、私の経験と知識を用いて、新しい視点からご説明します。
「転」は漫画にとってどのような役割のあるパートでしょうか?
まずは「起承転結」の「転」を大まかな流れでイメージして、次に、ブレイク・スナイダーのビートシートを用いて、細かく分解して描いていくようにしましょう。
私が書いた「サンプル」を、各ビートに載せてあります。参考にして頂ければ幸いです。
いつものように、私が作ったネームノートを参照しながらご紹介します。
転は「転落」
「驚かす変化」と言っても難しく考えなくても大丈夫です。
「承」で絶好調になった主人公を、絶不調にするだけで良いのです。
ついさっきまで人生の最高潮に達していたはずなのに、あっという間に谷底まで「転落」してしまうのです。
つまり、「転」は「転落」と考えるとイメージしやすいと思います。
迫りくる悪い奴ら(50%~68%)
ここからは、ブレイク・スナイダーのビートシートを参考にしながら、「転」のパートを分析していきます。
「転」のパートは
- 迫り来る悪い奴ら(50%~68%)
- すべてを失って(68%)
- 心の暗闇(68%~77%)
- 第二ターニングポイント(77%)
※()内の%は漫画のページ数に対してのパーセンテージを意味しています。
となっています。
順にご紹介します。まず最初に「迫りくる悪い奴ら」が始まります。
最強の敵
「迫りくる悪い奴ら」は人だけではなく、事件や状況が主人公にとって悪い方向に強大化していきます。
悪い事柄が、そのスケールを最大限にアップして、しかも他の悪い事柄すべてと重複して、まとめて主人公に襲い掛かります。
まさしく「最強の敵」となって主人公の前に立ちはだかります。主人公の力だけでは絶対に敵わないような、強さと非情さを相手は備えています。その最強の敵を倒すことが、セントラルクエスチョンを解決することと同義となります。
孤立
「最強の敵」に対して、主人公は逃げることが出来ません。助けを求めることもできません。主人公は敵に囲まれ孤立してしまっているのです。
結局は、間一髪のところでなんとか危機を回避し、思わぬ仲間に助けられながら、主人公が最強の敵を倒すことになるのです。
しかし、「転」のパートにおいて、主人公自身は「孤立し、一人で立ち向かうしか道がない」と信じ込んでいます。孤独で弱い主人公が、最強の敵と対峙せざるをえない様な、緊迫感を演出しましょう。
前回の記事で、ゴールキーパー漫画のサンプルを用いてご紹介しましたが、今回もその続きを例として、「迫りくる悪い奴ら」の説明をします。
ライバルの天才ゴールキーパーに勝つために、イタリアで修行していた高校3年生の主人公。イタリア代表ゴールキーパーに師事し、様々な技術を習得した。
イタリア人の女の子とも仲が良くなり、付き合うことになった。サッカー大会の決勝では、彼女が見に来てくれる約束もしてくれた。
そして、修行を終えて日本に帰ってきた。部室を訪れると、数日前とは一変していた。
監督が辞めさせられており、転校生が代わりに監督になっていた。ここからが「迫りくる悪い奴ら」
実は転校生の親は有力政治家で、しかもサッカー協会の幹部だった。監督に圧力をかけて辞めさせ、息子に自由にサッカーをやらせようと働きかけたのだった。
全権を手中にした転校生は、自分の思い通りの引き抜きと選手起用を行っており、サッカー部の今までのチームメイトはすべて退部させられていたのだった。
転校生のイエスマンばかりを引き抜き、女子マネージャーを傍らに侍らせていた。
主人公が転校生に話しかけるが、まともに相手にされず侮蔑だけされる。どう考えても試合に出してもらうことなど不可能だった。
彼女に電話するが、時差が8時間あるため、彼女は電話に出てくれない。出てくれたとしても、学校の休み時間の合間だったり、就寝中であったりで、彼女とゆっくりと話すことができない。
しかも言葉の壁があり、なかなか伝わらない。彼女も入試前でナイーブになっており、気が立っている。メールで別れを示唆されたりもする。
というものです。絶対的な権力を手に入れた転校生と、チームメイトすらいない主人公。そして彼女との仲も悪くなっていき、孤独感が強まっていきます。
すべてを失って(68%)
「すべてを失って」は「迫りくる悪い奴ら」の続きのようなものです。
先述しましたが、これはあくまでも「見せかけ」です。本当は主人公には潜在能力が眠っており、仲間たちも主人公のことを見放してはいません。しかし、主人公はすべてを失ったかのように錯覚し、絶望するのです。
絶不調
「すべてを失って」では、主人公は絶不調になります。「ミッドポイント」で人生の絶頂を迎えていましたが、そこから真っ逆さまに転落します。
つまり、「ミッドポイント」までで得た能力が役に立たないと分かり、仲間になってくれた人々にも見放され、絶望する瞬間がこのビートということです。
命を落とす気配がある
絶望を表現するのに効果的なのは、「命を落とす」気配を演出することです。
- 主人公が絶望して、絶命を決意
- 大切な人が亡くなる
- ペットが亡くなる
- 観葉植物が枯れる
等々です。
なんらかの生命が絶える演出と、主人公が絶望しうなだれる描写を並行して描くと、より絶望感が際立ちます。
サンプルとしては、
主人公は退部したチームメイトをかき集める。そして、転校生に練習試合を持ちかける。
主人公チームと転校生チームで、勝ったほうが大会に出場できるようにして欲しいと頼みこむ。転校生は却下するが、それでもしつこく食い下がる。
転校生から一案が出される。「負けたら屈辱的な罰ゲームを受けろ」というものだった。主人公には自信があり、その提案を受け入れる。
そして試合開始。主人公チームと転校生チームが90分間の試合を行うが、結果は18-0で転校生チームが圧勝する。
転校生が引き抜いた選手は、クラブユースの有名選手ばかりで、レベルが非常に高かった。そして、ゴールキーパーの能力にも大きな差があった。
思っていた以上に、転校生は上手かった。修行をした主人公のその上をいっていたのだ。まざまざと実力の差を見せつけられた。
罰ゲームはチーム全員で行う屈辱的なものだった。みんなが辱められた。チームメイトは主人公の責任にした。主人公が自信満々に誘ってきたから乗ったのに、この有り様なのである。
チームメイトに見捨てられた主人公。
転校生は主人公よりも飛びぬけて上手く、しかも仲間にも見捨てられ、意気消沈する主人公。
彼女に電話するが、試験前なので忙しいし、そんな弱音聞きたくないと言って、別れを告げるメールが送られてきた。
肩を落とし、学校の屋上でひとりたたずむ主人公。飛び降りようと決意していた。
というものです。なにもかもを失い、命を捨てようとする主人公。人生のどん底です。漫画の出だしよりも状況は悪くなっています。
心の暗闇(68%~77%)と第二ターニングポイント(77%)
「心の暗闇」では、絶命する瞬間を体験した主人公が、冷静さを取り戻し、仲間の大切さを改めて思い出す瞬間となります。人というのは、失ってはじめてその大切さに気付くものです。
失ったあと、彼らの言葉がすんなりと心に沁みわたります。そこから解決の糸口が見えてきます。
それが「第二ターニングポイント」となります。
メインとサブの合流、そして悟り
しかし、そう簡単には最善策は思いつきません。真っ暗闇の中で手探りで答えを探している状態です。主人公が答えを見つけるには時間をかけても良いでしょう。
何日か何か月か悩んだ末に、ある出来事がヒントとなって、最も大切な教訓を悟ります。それは、メインプロットとサブプロットが合流して、主人公にヒントを与える構造になっている必要があります。
サンプルとして、
学校の屋上で一人たたずむ主人公。この世から消えてなくなることを意識した瞬間に、冷静さが少しずつ戻ってくる。仲間を失ってその大切さが分かる。すべて自分の弱さで失ったのだ。
浮かんでは消える、彼女とチームメイトたちの笑顔。
…そしてイタリア代表ゴールキーパー。彼はいつも笑っていたな。その時、イタリア代表ゴールキーパーが口にしていた言葉を思い出す。
「辛い時には笑え。じゃないと人生泣くだけで終わるぞ」
厳しい練習中に、息を切らせながらも、かけてくれた言葉だった。
陽気で悩みひとつないように見えた彼も、実は悩み苦しみ、辛いことを日々乗り越えていたんだ。そうでなければ、世界最高の偉大なゴールキーパーになれる訳がないのだ…。
主人公はイタリア代表ゴールキーパーと自分を対比させる。
遠く及ばない。精神面も技術面にしてもだ。あの練習試合で自分は何が出来ただろう?教えてもらった技術をひとつでも出せただろうか?
まだまだ未熟なんだ。彼ならすべて止めていたはずだ。
そして、彼女もだ。彼女も極貧の中、弟たちを養い、特待生を目指して日々努力している。それでもいつも笑って頑張っている。
自分なんて彼女に比べたらひよっこだ。
彼はグラウンドの片隅まで走り、そこでひとり黙々と練習に励む。毎日、誰よりも早くグラウンドに顔を出し、誰よりも遅く帰る。今までで最高に密度の高い練習をひとりで行い続けた。
その姿は学生たちの目には滑稽に映った。試合に出場することのない選手が、チームに加わらず、一人でドタバタと練習をしているのである。
冷ややかな視線と、冷笑、心ない言葉を浴びせる学生もいた。しかし、主人公はそれを意に介さなかった。
試合に出ることは不可能かもしれない。でもまだ大会は終わってはいない。いつかチャンスが来るかもしれない。それまでは努力し続けなければならない。
彼女にメールで伝える。自分が間違っていたことを伝える。そして入試を心から応援していることも伝える。そして、こう伝えた。
「君からの別れを告げるメッセージを僕は弾き飛ばした。僕は日本最高のゴールキーパーになるんだ。君のキックは僕には通用しない」
普段から冗談を言うことがない主人公だったが、イタリア代表ゴールキーパーに感化されて、辛いからこそ少しユーモアのある文章を送った。それでも彼の真面目な性格が滲み出た文章だった。
彼女からの返信はなかったが、彼は毎日メールを送り続けた。いつかそれが実を結ぶと信じていたから。
というものです。どん底な状況には変わりはありませんが、主人公は答えを見つけ出しています。それを信じて動き出しています。ある意味、行き過ぎた行動に見えるかもしれませんが、この漫画のテーマに沿っていればそれで良いのです。
以上が「転」の部分になります。
「転」は「転落」の意味ですが、谷底まで転げ落ち、這いつくばった地面に「悟り」があります。それは、山のてっぺんと、深い谷底のどちらも経験した者のみが見出せるものです。
酸いも甘いも知らなければ、見えてこない「答え」というのが人生にはあるものです。それを見つけることは、まさしく人生が変わる「ターニングポイント」なのです。
まとめ
【起承転結の「転」】のまとめです。
- 転落!…主人公にとって悪いことばかり起こる!絶望の谷底へ!
- 最強!…解決する問題は最高に難問!どう考えたって解決不可能!?
- 絶命!…命を落とす意思や気配が漂う!そこで初めて気づくこと!
- 悟り!…メインとサブが合流!問題の答えを主人公だけは知る!
次回は、【起承転結の「結」。感動の嵐を呼び起こせ!】です。宜しくお願い致します。