【漫画の描き方⑥】起承転結の「転」。人を魅了する「絶望」のからくり

ヲヲクラゲ

こんばんは、漫画原作者のヲヲクラゲです。
今回は起承転結の「転」について、私の経験と知識を用いて、新しい視点からご説明します。

 

「転」は漫画にとってどのような役割のあるパートでしょうか?

 

「転」では、奇想天外な突飛な展開を考えがちですが、実は不要です。考えることはたったひとつだけで良いのです。それだけで、漫画は面白くなります。

 

まずは「起承転結」の「転」を大まかな流れでイメージして、次に、ブレイク・スナイダーのビートシートを用いて、細かく分解して描いていくようにしましょう。

私が書いた「サンプル」を、各ビートに載せてあります。参考にして頂ければ幸いです。

いつものように、私が作ったネームノートを参照しながらご紹介します

全48ページ。ネームのコツを書き記したノート。

 

転は「転落」

自著。ピンチになる瞬間。画像をタップで読めます。

 

起承転結の「転」の本来の意味は、漢詩でいうところの、「転句」にあたり、 読み手を驚かす変化を入れなければなりません。

 

驚かす変化」と言っても難しく考えなくても大丈夫です。

「承」で絶好調になった主人公を、絶不調にするだけで良いのです

 

「転」では主人公にとって良くない事ばかり起こります。起こること全てが主人公にとって不利に働き、運にも突き放され、主人公の人生は逆風にさらされ続けます。

 

ついさっきまで人生の最高潮に達していたはずなのに、あっという間に谷底まで「転落」してしまうのです

つまり、「転」は「転落」と考えるとイメージしやすいと思います

 

 

迫りくる悪い奴ら(50%~68%)

 

自著。画像をタップで読めます。

 

ここからは、ブレイク・スナイダーのビートシートを参考にしながら、「転」のパートを分析していきます。

「転」のパートは

  • 迫り来る悪い奴ら(50%~68%)
  • すべてを失って(68%)
  • 心の暗闇(68%~77%)
  • 第二ターニングポイント(77%)

※()内の%は漫画のページ数に対してのパーセンテージを意味しています。

となっています。

 

順にご紹介します。まず最初に「迫りくる悪い奴ら」が始まります。

 

最強の敵

迫りくる悪い奴ら」は人だけではなく、事件や状況が主人公にとって悪い方向に強大化していきます

悪い事柄が、そのスケールを最大限にアップして、しかも他の悪い事柄すべてと重複して、まとめて主人公に襲い掛かります。

まさしく「最強の敵」となって主人公の前に立ちはだかります。主人公の力だけでは絶対に敵わないような、強さと非情さを相手は備えています。その最強の敵を倒すことが、セントラルクエスチョンを解決することと同義となります。

 

ヲヲクラゲ
セントラルクエスチョンを解決するために乗り越えなければならない壁は、高くぶ厚いほど良いでしょう。難題であればあるほど、解決したときの感動は大きくなるからです。

 

孤立

「最強の敵」に対して、主人公は逃げることが出来ません。助けを求めることもできません。主人公は敵に囲まれ孤立してしまっているのです

 

実はそれらは見せかけだけの演出であり、本当は逃げ場所も、援助者を用意することも可能です。逃げ場所も、援助者もいなければ、主人公は負けてしまうからです。上記しましたが、相手は最強の敵です。主人公の力だけでは敵わないように設定されているのです。

 

結局は、間一髪のところでなんとか危機を回避し、思わぬ仲間に助けられながら、主人公が最強の敵を倒すことになるのです。

しかし、「転」のパートにおいて、主人公自身は「孤立し、一人で立ち向かうしか道がない」と信じ込んでいます。孤独で弱い主人公が、最強の敵と対峙せざるをえない様な、緊迫感を演出しましょう。

 

前回の記事で、ゴールキーパー漫画のサンプルを用いてご紹介しましたが、今回もその続きを例として、「迫りくる悪い奴ら」の説明をします。

サンプル「迫りくる悪い奴ら」

ライバルの天才ゴールキーパーに勝つために、イタリアで修行していた高校3年生の主人公。イタリア代表ゴールキーパーに師事し、様々な技術を習得した。

イタリア人の女の子とも仲が良くなり、付き合うことになった。サッカー大会の決勝では、彼女が見に来てくれる約束もしてくれた。

そして、修行を終えて日本に帰ってきた。部室を訪れると、数日前とは一変していた。

監督が辞めさせられており、転校生が代わりに監督になっていた。ここからが「迫りくる悪い奴ら」

実は転校生の親は有力政治家で、しかもサッカー協会の幹部だった。監督に圧力をかけて辞めさせ、息子に自由にサッカーをやらせようと働きかけたのだった。

全権を手中にした転校生は、自分の思い通りの引き抜きと選手起用を行っており、サッカー部の今までのチームメイトはすべて退部させられていたのだった。

転校生のイエスマンばかりを引き抜き、女子マネージャーを傍らに侍らせていた。

主人公が転校生に話しかけるが、まともに相手にされず侮蔑だけされる。どう考えても試合に出してもらうことなど不可能だった。

彼女に電話するが、時差が8時間あるため、彼女は電話に出てくれない。出てくれたとしても、学校の休み時間の合間だったり、就寝中であったりで、彼女とゆっくりと話すことができない。

しかも言葉の壁があり、なかなか伝わらない。彼女も入試前でナイーブになっており、気が立っている。メールで別れを示唆されたりもする。

というものです。絶対的な権力を手に入れた転校生と、チームメイトすらいない主人公。そして彼女との仲も悪くなっていき、孤独感が強まっていきます。

 

すべてを失って(68%)

自著。画像をタップで読めます。

 

すべてを失って」は「迫りくる悪い奴ら」の続きのようなものです

 

最強の敵の全貌が分かり、主人公との力の差が歴然であることが証明されます。そして、仲間たちにも完全に見放されます。

 

先述しましたが、これはあくまでも「見せかけ」です。本当は主人公には潜在能力が眠っており、仲間たちも主人公のことを見放してはいません。しかし、主人公はすべてを失ったかのように錯覚し、絶望するのです。

 

絶不調

「すべてを失って」では、主人公は絶不調になります。ミッドポイント」で人生の絶頂を迎えていましたが、そこから真っ逆さまに転落します

つまり、「ミッドポイント」までで得た能力が役に立たないと分かり、仲間になってくれた人々にも見放され、絶望する瞬間がこのビートということです。

 

命を落とす気配がある

絶望を表現するのに効果的なのは、「命を落とす」気配を演出することです

 

  • 主人公が絶望して、絶命を決意
  • 大切な人が亡くなる
  • ペットが亡くなる
  • 観葉植物が枯れる

等々です。

 

なんらかの生命が絶える演出と、主人公が絶望しうなだれる描写を並行して描くと、より絶望感が際立ちます

 

サンプルとしては、

サンプル「すべてを失って」

主人公は退部したチームメイトをかき集める。そして、転校生に練習試合を持ちかける。

主人公チームと転校生チームで、勝ったほうが大会に出場できるようにして欲しいと頼みこむ。転校生は却下するが、それでもしつこく食い下がる。

転校生から一案が出される。「負けたら屈辱的な罰ゲームを受けろ」というものだった。主人公には自信があり、その提案を受け入れる。

そして試合開始。主人公チームと転校生チームが90分間の試合を行うが、結果は18-0で転校生チームが圧勝する。

転校生が引き抜いた選手は、クラブユースの有名選手ばかりで、レベルが非常に高かった。そして、ゴールキーパーの能力にも大きな差があった。

思っていた以上に、転校生は上手かった。修行をした主人公のその上をいっていたのだ。まざまざと実力の差を見せつけられた。

罰ゲームはチーム全員で行う屈辱的なものだった。みんなが辱められた。チームメイトは主人公の責任にした。主人公が自信満々に誘ってきたから乗ったのに、この有り様なのである。

チームメイトに見捨てられた主人公。

転校生は主人公よりも飛びぬけて上手く、しかも仲間にも見捨てられ、意気消沈する主人公。

彼女に電話するが、試験前なので忙しいし、そんな弱音聞きたくないと言って、別れを告げるメールが送られてきた。

肩を落とし、学校の屋上でひとりたたずむ主人公。飛び降りようと決意していた。

というものです。なにもかもを失い、命を捨てようとする主人公。人生のどん底です。漫画の出だしよりも状況は悪くなっています

 

ヲヲクラゲ
セントラルクエスチョンに対して「解決不能」であることが、誰の目にも分かりやすく提示される場面となります。

 

 

心の暗闇(68%~77%)と第二ターニングポイント(77%)

自著。ひとり、思い悩む。画像をタップで読めます。

 

心の暗闇」では、絶命する瞬間を体験した主人公が、冷静さを取り戻し、仲間の大切さを改めて思い出す瞬間となります。人というのは、失ってはじめてその大切さに気付くものです。

失ったあと、彼らの言葉がすんなりと心に沁みわたります。そこから解決の糸口が見えてきます

それが「第二ターニングポイント」となります

 

メインとサブの合流、そして悟り

しかし、そう簡単には最善策は思いつきません。真っ暗闇の中で手探りで答えを探している状態です。主人公が答えを見つけるには時間をかけても良いでしょう。

何日か何か月か悩んだ末に、ある出来事がヒントとなって、最も大切な教訓を悟ります。それは、メインプロットとサブプロットが合流して、主人公にヒントを与える構造になっている必要があります

 

サンプルとして、

サンプル「すべてを失って」「第二ターニングポイント」

学校の屋上で一人たたずむ主人公。この世から消えてなくなることを意識した瞬間に、冷静さが少しずつ戻ってくる。仲間を失ってその大切さが分かる。すべて自分の弱さで失ったのだ。

浮かんでは消える、彼女とチームメイトたちの笑顔。

…そしてイタリア代表ゴールキーパー。彼はいつも笑っていたな。その時、イタリア代表ゴールキーパーが口にしていた言葉を思い出す。

「辛い時には笑え。じゃないと人生泣くだけで終わるぞ」

厳しい練習中に、息を切らせながらも、かけてくれた言葉だった。

陽気で悩みひとつないように見えた彼も、実は悩み苦しみ、辛いことを日々乗り越えていたんだ。そうでなければ、世界最高の偉大なゴールキーパーになれる訳がないのだ…。

主人公はイタリア代表ゴールキーパーと自分を対比させる。

遠く及ばない。精神面も技術面にしてもだ。あの練習試合で自分は何が出来ただろう?教えてもらった技術をひとつでも出せただろうか?

まだまだ未熟なんだ。彼ならすべて止めていたはずだ。

そして、彼女もだ。彼女も極貧の中、弟たちを養い、特待生を目指して日々努力している。それでもいつも笑って頑張っている。

自分なんて彼女に比べたらひよっこだ。

彼はグラウンドの片隅まで走り、そこでひとり黙々と練習に励む。毎日、誰よりも早くグラウンドに顔を出し、誰よりも遅く帰る。今までで最高に密度の高い練習をひとりで行い続けた。

その姿は学生たちの目には滑稽に映った。試合に出場することのない選手が、チームに加わらず、一人でドタバタと練習をしているのである。

冷ややかな視線と、冷笑、心ない言葉を浴びせる学生もいた。しかし、主人公はそれを意に介さなかった。

試合に出ることは不可能かもしれない。でもまだ大会は終わってはいない。いつかチャンスが来るかもしれない。それまでは努力し続けなければならない。

彼女にメールで伝える。自分が間違っていたことを伝える。そして入試を心から応援していることも伝える。そして、こう伝えた。

「君からの別れを告げるメッセージを僕は弾き飛ばした。僕は日本最高のゴールキーパーになるんだ。君のキックは僕には通用しない」

普段から冗談を言うことがない主人公だったが、イタリア代表ゴールキーパーに感化されて、辛いからこそ少しユーモアのある文章を送った。それでも彼の真面目な性格が滲み出た文章だった。

彼女からの返信はなかったが、彼は毎日メールを送り続けた。いつかそれが実を結ぶと信じていたから。

というものです。どん底な状況には変わりはありませんが、主人公は答えを見つけ出しています。それを信じて動き出しています。ある意味、行き過ぎた行動に見えるかもしれませんが、この漫画のテーマに沿っていればそれで良いのです

 

この漫画のテーマは「人一倍の努力をし続ければ願いは叶う」です。人一倍の努力というのはある種、常識から外れるものです。人目を気にしていては、成功できないということを示唆しています。

 

以上が「転」の部分になります。

 

転」は「転落」の意味ですが、谷底まで転げ落ち、這いつくばった地面に「悟り」があります。それは、山のてっぺんと、深い谷底のどちらも経験した者のみが見出せるものです。

酸いも甘いも知らなければ、見えてこない「答え」というのが人生にはあるものです。それを見つけることは、まさしく人生が変わる「ターニングポイント」なのです

 

ヲヲクラゲ
絶頂まで上り詰める「承」と、谷底まで転げ落ちる「転」は、この「悟り」を得るためにあります。

 

 

まとめ

自著。画像をタップで読めます。

 

【起承転結の「転」】のまとめです。

  1. 転落!…主人公にとって悪いことばかり起こる!絶望の谷底へ!
  2. 最強!…解決する問題は最高に難問!どう考えたって解決不可能!?
  3. 絶命!…命を落とす意思や気配が漂う!そこで初めて気づくこと!
  4. 悟り!…メインとサブが合流!問題の答えを主人公だけは知る!

 

ヲヲクラゲ
あくまでも私独自の観点からの漫画講義ですが、ほんの少しでも皆様のご参考になれば幸いです。

参考書籍はこちらを参照ください。

 

次回は、【起承転結の「結」。感動の嵐を呼び起こせ!】です。宜しくお願い致します。