こんにちは、漫画原作者のヲヲクラゲです!
今回はキャラクターの創り方についてお話します。
何といっても漫画はキャラクターが命。ストーリーが良くても、キャラクターが魅力的でなければ全てが台無しになります。ストーリーはキャラクターの行動を通して展開されます。キャラクターに魂が宿らなければ、ストーリーも空虚なものと受け取られてしまいます。
「キャラクターに魂を宿す」とはどういうことでしょうか?
漫画のキャラクターというのは、実際には存在しない、ただの「絵」ですが、漫画を読んでいると本当に存在しているように感じます。そのキャラクターの一挙手一投足に、感動したり、ワクワクしたり、ドキドキしたり、腹が立ったり…。様々なキャラクターに、様々な感情を注ぎ込みながら読んでいます。
つまり、キャラクターに魂を宿すためには、私たちの感情を動かさせる何かがなければいけません。キャラクターに何が備わっていれば、私たちの感情はキャラクターに注がれて行くのでしょうか?
これからご説明していきます。
例によって、私が作ったネームノートからキャラクターの創り方をご紹介します。
欲求と性格
まずはじめに、「キャラクターに魂を宿す」ために絶対的に必要なのは、「人間らしさ」です。
「人間に」興味の無い人間は、ほとんどいません。家族や友達、職場のスタッフ、政治家や資産家、科学者、スポーツ選手、歴史上の人物、タレント、アイドル等々、みんな誰かには興味があると思います。
基本的に、「人間は人間が気になって気になって仕方ない」と考えると良いでしょう。読者は「人間らしさ」のあるキャラクターに、感情移入しやすいと言えます。
ということで、キャラクターが、人間らしさを手に入れるコツを述べていきます。
前回の記事で少し触れましたが、キャラクターを動かすモノは「欲求」です。その他に「性格」も影響します。
まずはキャラクターの欲求・性格を決めましょう。そのキャラクターは、何を欲しているのか?何のために動いているのか?それらに対して性格がどう行動に影響を与えるのか?
欲求
前回の記事でも述べましたが、本能的な欲求から目的が生じてきます。キャラクターを創る際には、そのキャラクターの「目的」を先に決めがちですが、その際には必ず、欲求は何なのかまで詰めておきましょう。そうすることで、そのキャラクターの真の目的が見えてくることもあります。
本能的な欲求の導き方としては、「なぜなぜ問答」をしていきましょう。例えば「漫画家になりたい」という漠然とした目的があるのであれば、
Q.なぜ漫画家になりたいのか?
A.漫画を描くのが好きだから
Q.なぜ漫画を描くのが好きなのか?
A.自分の思い通りの世界やストーリーを作れるから
Q.なぜ自分の思い通りの世界やストーリーを作りたいのか?
A.現実世界では自分の思い通りにいかなくて辛いから
Q.なぜ現実世界では自分の思い通りにいかないのか?
A.人との共同生活が苦手だから
Q.なぜ共同生活が苦手なのか?
A.コミュニケーション能力が低いから
Q.なぜコミュニケーション能力が低いのか?
A.自分に自信がないから
Q.なぜ自分に自信がないのか?
A.いじめられてきたから
Q.なぜいじめられてきたのか?
A.小さくて弱くてすぐ泣くから
という風に、「なぜ」「なぜ」と延々と質問しては答えていきます。
そして、深く掘っていくと、その人の成り立ちが見えてきます。いじめが原因で、自信が持てずに社会で上手く行かなくなった。だから漫画で自分を中心とした新しい世界を作りたい、という動機が出ています。
この人はただ漫画を好きだから描きたいのではなく、いじめた人たちへの「復讐」という本能的な欲求が根源としてあります。絶対に忘れられない屈辱を、自分の筆で塗り替えようとしているのです。
性格
人間には持って生まれた性格があります。性格は漫画の中でも基本的には変化しません。感情は大いに変化するべきですが、性格は変化しなくて大丈夫です。
性格は長い年月をかけても不変、もしくは少しずつ変化するため、限られたページ数の漫画において、性格の変化を描こうとすると、嘘くさくなってしまいます。
決定された「性格」は「欲求」と化学反応を起こします。
ある人物が「意地悪」な性格だったとして、欲求が「大切なAさんを守りたい」だったとします。素直に「Aさんを守りたい」とは、意地悪な性格が邪魔をして言えません。むしろAさんのことを意地悪く嫌がらせをしてしまいますが、しかし、Aさんが本当に危険に晒されると、必死になって助けたりします。
性格が「甘ったれ」であれば、甘えながらAさんに近づき、傍にいてAさんを守ろうと周囲に目を光らせるようなキャラクターになるでしょう。
これらのシチュエーションにおいてどれが面白いかと考えた場合、前回の記事でも描きましたが、よりキャラクターたちが「葛藤」を生じる方を選びましょう。
つまり、キャラクターたちが困る状況になるように、キャラクターの性格や欲求を考えると良いでしょう。もしくは、キャラクターの性格と欲求を考慮して、より葛藤するシチュエーションを作りましょう。
葛藤することによって、感情が大いに揺さぶられ、性格とは違った行動に突き動かされます。この変化が面白いのです。そうなるようによく考えてみましょう。
個性
キャラクターの欲求と性格という根幹が定まれば、あとは枝葉の部分をつけていきます。そうすることでキャラクターが動き出します。
以下で述べる項目は、キャラクターに深みを与えたり、コアなファンに応援されるためには、とても大事な部分です。
弱点
人間というのはとても弱い生物です。肉体的な弱さもありますが、精神的にも弱いものです。
初志貫徹できる人は、私を含め身近にもそれほど多くはいないでしょう。志や目標は、時間とともに忘れ、ぼやけ、努力も怠っていきます。
それを本人も分かってはいますが、奮起できない弱さが誰しもあります。読者もこういった経験があるはずですから、共感を得やすいため、「意志の弱さ」を弱点の一つとして描くのも良いでしょう。
また、読者は自分と同じ弱点を持ったキャラクターが、ピンチになったり恥をかいたりするのに興味があります。そしてそれらに対してどう対処するかを、読者自身も一緒に考えます。この時、物語に深く入り込んでいる状態といえます。
クセ
クセというのは習慣的なものであったり、無意識に出たりするものです。
クセを描くことにより、職業や生活習慣を表現することができます。
また、シチュエーションによって出るクセが変化すると、その人がその状況において、緊張していたり、あるいは安心していたりというのを表現することができます。例えば、「緊張すると爪を噛むクセがある」、というキャラクターであれば、爪を噛んでいないときは、ある程度リラックスしていることが伝わります。
セリフ以外
あるシチュエーションにおいて、あえて言葉で語らず、背中や目つき、指や髪の毛など、口以外で言いたいことを伝える場面も作りましょう。
怒りを訴える場合には、握りこぶしや、ふるえる背中、逆立つ髪の毛、にらみつける目、など色々あると思います。
「クセ」がより個性が出るとすれば、この項目はベタな表現方法となっています。それゆえに読者に伝わりやすいのです。それぞれの心理状況に合わせて、読者が分かりやすい表現方法を日ごろから考えておきましょう。
職業・部活
他人の職業というのは気になるものです。誰かと初めて会って、会話をするとして、まず職業を聞くことが多いと思いますし、相手から職業を聞かれる事も多いと思います。
生業としている仕事によって、その人の個性やスキル、生活等を想像することがある程度は可能だからです。その人を知るためにはその職業を知ることが手っ取り早いのです。それだけ「職業」というのは、個人を形成する重要な要素ということになります。
学生時代であれば「部活」がその人の重要な構成要素でしょう。数ある部活で自由に選べる中からなぜ「将棋部」なのか?そこにはその人ならではの理由があるはずです。入部した経緯を考えてみるだけで、キャラクターが起ってくることが分かると思います。
そして、職業や部活から体得されるスキル・能力や経験値というのはキャラクターの強烈な個性となってストーリーに影響を及ぼすことがあります。
キャラクターに何の職業・部活を与えるかはとても大事になります。
自由
以上、欲求と性格、弱点とクセ、職業が決まれば、キャラクターたちを配置して行きましょう。衝突と葛藤が絶えない配置を心がけましょう。
一度配置してしまえば、あとはキャラクターが自由に動くのをシミュレーションしていきます。このキャラクターはこう動くはず。そうすると、あのキャラクターはこう対処するはず。その場合、そのキャラクターがこう思うから、こういう行動に出るはず………。
という様にキャラクターの特徴に応じて、それぞれ動き出します。作者が起こしたい「事件」等があるのでしたら、そこから逆算して、キャラクターたちを誘導できるように、元々の配置を設定しましょう。
主人公
漫画には「主人公」が必ず登場しますが、上述した以外で、主人公に必要な要素とは何でしょうか?
知っている漫画を何でも良いので思い出してみましょう。そうすると、「主人公」がまずパッと思い浮かぶはずです。
つまり、「主人公」は漫画の「顔」であり、その名の通りメインキャラクターなのです。有名な漫画で主人公がパッと思い浮かばないものは、ほとんどないと思います。それだけ、作者は主人公のキャラクター性を強くする工夫をしているということです。
では「主人公」を「主人公」たらしめるためには、どうしたらいいでしょうか?以下で説明していきます。
円形人物
主人公は円形人物、いわゆるラウンドキャラクターである必要があります。
円形=360度、ということで、あらゆる角度から、その人物のことが描かれます。
つまり、会社が舞台とした漫画であれば、主人公は会社で働いている姿だけでなく、退社したあとのプライベートなことまで描かれます。プライベートでの悩みや恋愛関係、親子関係、友人関係等々です。
過去のことや、悩んでいること、コンプレックス、トラウマ、ちょっとした失敗談まで全てが作中で表現されます。
そうすることで、読者は主人公の人となりや、事情を深く知ることになり、共感したり、憧れを抱いたり、応援したい気持ちになることが出来ます。
自然と露出機会も増えるため、漫画の顔としての地位を確立することが出来るのです。
ちなみに、円形人物(ラウンドキャラクター)の他に、半円形人物(セミラウンドキャラクター)という用語があります。
半円形人物は、会社で働いている姿だけを描き、プライベートの姿は描かないという様に、そのキャラクターの違った側面・個性というのをあえて消し去ります。
悪役として登場させたつもりの鬼のような上司でも、家庭では子供を可愛がる優しい一面があるかもしれません。
しかし、プライベートの優しい側面まで描いていしまうと、悪役としての個性が失われてしまいます。
悪役・脇役は半円形人物として描くと良いでしょう。
いい人(save the catの法則)
主人公は「いい人」にしておくのが無難です。
「根っからのワル」が主人公の漫画は、需要が無いわけではないと思いますが、共感や憧れ、感動を作り出すことは難しいでしょう。
そんな「いい人」の自分が、学校や社会で苦しんだり、嫌なことが起こり続ける「不条理」に辟易としているのです。
作中の主人公も「いい人」であり、そんな「いい人」が悪い上司達や、トラブルに巻き込まれて苦しみます。そこで読者は「自分と同じだ」と共感します。
しかし、主人公は必ず、悪い上司を倒し、トラブルを自ら解決し、最後には勝利をつかみ取るのです。読者は、一掃された悪者たちに胸がすく思いになり、主人公が苦労してつかみ取った勝利に感動し、憧れを抱くのです。
主人公が「いい人」であれば、こういった王道のようなストーリーが作りやすく、多くの読者の心を掴むことが可能なのです。
また、「いい人」を表現するには、「save the catの法則」を使うのが効果的です。
ハリウッドの脚本家、故ブレイク・スナイダーが名付けた「save the catの法則」というのがあります。直訳すると「猫を救え、の法則」となります。
意味としては、
つまり、弱い者の窮地を危機一髪のところで救うエピソードがあると、主人公の「いい人」感は際立つことになり、読者が応援したいキャラクターになります。「呪術廻戦」の1話目でも主人公がそういう行動を取っていますね。是非皆様の漫画でも「save the catの法則」を組み込んでみて下さい。
最大の葛藤
漫画のストーリーの中では、各キャラクターに様々な困難が押し寄せてくると思いますが、その中でも主人公が一番大きな困難に直面するようにしましょう。
困難が大きければ大きいほど、葛藤が大きくなります。たとえ優しい性格の主人公であっても、どんどん感情的になっていき、いずれその性格とは違った行動を取るようになります。そうすることにより、キャラクターの変化や多面性を表現できるため、主人公に人間としての興味が湧いてくるのです。
悪役、脇役、アイテム
漫画では主人公以外に様々なキャラクターが出てきます。彼らの役割とは何なのでしょうか?
基本的には、彼らはみんなして主人公を「困らせる」役割があると思っていいでしょう。悪役はもちろんですが、主人公をサポートするような優しい仲間であっても主人公を困らせてしまいます。
サポートしてくれる仲間に主人公が恋心を抱き、その感情をどうしたらいいのか分からなくなったり、あるいは、その仲間が事件に巻き込まれて、助けるために主人公が危険を冒したりと、仲間がいるからこその危機が主人公に迫ってくるのです。
それを前提とした上で、悪役や脇役に必要な要素を説明していきます。
悪役
悪役は必ずしも漫画に必要ではないかもしれません。しかし、主人公を困らせる相手としてはとても優秀です。明確な悪役を登場させておけば、漫画は盛り上がりやすいでしょう。
悪役の性格は主人公と正反対で構いません。主人公が「やさしく素直で陽気」であれば、悪役は「冷たく意地っ張りで陰気」の様にです。基本的には主人公は「いい人」ですので、悪役は「悪い人」になりますね。
欲求においても、主人公とは別のモノを悪役には備えておきましょう。主人公は「好きな人を守りたい」という欲求なのに対し、悪役は「嫌いな奴を排除したい」といったように、お互いの性格も欲求も違っており、話し合いでは到底理解できないような関係にしておきます。
本来であれば接点のないような、主人公と悪役ですが、同じ部活になったり、事件や仕事でお互いが関わり合うようになったりして、悪役が主人公の強大な壁として立ちはだかり、常に主人公の邪魔をしていく存在となります。
ただし、どこかに弱点を入れておきましょう。悪役は最後に主人公に倒されなければなりません。その伏線を入れておく必要があるのです。
脇役
漫画や映画の名作には名脇役が付き物です。脇役がしっかりと脇役の仕事をこなすと、作品は面白くなります。
脇役の仕事は、狂言回しと言って、漫画の世界観や進行状況を説明する役割があります。
- 日常生活のちょっとした異変に気付いて、それを主人公に報告したり
- 脇役の行動がトラブルの原因になったり
- 脇役だけが知っていることを披露したり
- 読者の代わりに、知りたいことを聞いてくれたりして
読者の理解を補足し、ストーリーを進めるために動き回ります。
また、脇役は主人公に情報やヒントを与えますが、脇役が問題を解決することはありません。脇役はいつも肝心な部分で間違っており、真の答えは主人公だけが気づくようにしましょう。そうすることで主人公が引き立ちます。主人公のかませ犬のような仕事も脇役には求められるのです。
アイテム
ここで述べるアイテムというのは、道具という意味の他にも、キャラクターが来ている服や、飼っているペット、乗り物など、あるキャラクターに付随する全てのモノを指しています。
キャラクターの個性を出すために効果的なのはアイテムを持たせることです。たとえば、学園生活で3つの頭を持つアナコンダ(大蛇)を腰に巻いた女子高生がいたら、個性としては強烈です。
その意味やリアリティが崩れないかは考慮が必要ですが、アイテムひとつで、キャラクターが起ちますし、周りのリアクションや人間関係にも影響を与えます。
そうすることで、登場人物たちに感情の動きが出てきます。変化が出ることが面白いと前の記事でも述べましたが、アイテムは漫画の中で変化を起こす重要な要素だと言えるでしょう。
まとめ
キャラクターに魂を宿すコツは、「人間らしさ」を突き詰めていくことでした。
- 欲求と性格を熟慮!…人物の根幹部分。深く考えて設定!感情の変化も合わせて考えよう!
- 個性を大事に!…弱点はひとつは作る。クセや職業などを設定して後は自由に動かそう!
- 主人公はいい人!…「save the catの法則」を使う!そして最大の葛藤!
- 悪役・脇役!…基本的には主人公を困らせる!ストーリーの進行役である!
次回は、「ウケるタイトルとストーリー!失敗しない構成術!」です。宜しくお願い致します。