こんばんは。漫画原作者のヲヲクラゲです。
今回は、起承転結の「起」について、私の経験と知識を用いて、新しい視点からご紹介します。
漫画のストーリーの中で、最も大事な部分は「起」だと思います。
かと言って、「起」の部分が簡単に面白くなるかと言えば、かなり難しいパートと言えます。
説明することがとにかく多いからです。時代、場所、主人公、悪役、脇役、テーマ、セントラルクエスチョン等、読者に伝えなければならない情報が山盛りなのです。
どうすれば上手くいくのでしょうか?
まずは「起承転結」の「起」を大まかな流れでイメージして、次に、ブレイク・スナイダーのビートシートを用いて、細かく分解して描いていくようにしましょう。
いつものように、私が作ったネームノートを参照しながらご紹介します。
起は「起爆」
爆発をイメージする
出だし。作者自身がドキドキ・ワクワクしながら描きましょう。もし、高揚する感情が湧いてこないのであれば、描き直した方がいいかもしれません。
作者自身の心が震える事柄を「一瞬にして全て伝えるんだ」、という激しい気持ちで描きましょう。それはきっと読者にも伝わります。
オープニングイメージ(1%)
ここからは、ブレイク・スナイダーのビートシートを参考にしながら、「起」のパートを分析していきます。
「起」のパートは
- オープニングイメージ(1%)
- テーマの提示(5%)
- セットアップ(1~9%)
- きっかけ(11%)
※()内の%は漫画のページ数に対してのパーセンテージを意味しています。
と考えます。漫画のページ数の11%あたりまでで、「起」は終わるようにしましょう。かなり短いですが、この一瞬にすべてを捧げるような勢いで描きましょう。
さて、まずはじめに「オープニングイメージ」が必要となります。漫画ならば表紙や2ページ目あたりになります。
主人公の変化前の姿を描く
オープニングイメージで描くべきことは、「主人公」です。主人公の登場シーンはよく練って描きましょう。スタイリッシュなのか、可愛いのか、とぼけているのか、どんなアイテムを持って、どんな力があるのか等々。
主人公の
- 性格
- 能力
- 感情
- 時代
- 場所
を表現できると良いですね。
注意しなければいけないのは、主人公は作中で変化します。精神的・肉体的に成長していきます。
そのため、オープニングイメージでは、主人公の特徴のどの部分に焦点を当てるか考えておきましょう。その部分は未熟であり(主人公は未熟と思っていないかもしれない)、しかし、クライマックスでその部分が変化しセントラルクエスチョンの解決に導くような特徴を設定しておくと良いでしょう。
クライマックスまでに変化するモノとしては、
- 感情
- 能力
- 知識
- アイテム
- 仲間
- 地位・職業
等が挙げられます。特に感情は何度も変化するように心がけましょう。
基本的には変化する前のモノであるので、これらは主人公の弱点であり欠点である必要があります。
一方で、変化しないモノもあります。変化しないモノだけに焦点を当ててしまうと、変化・成長が無い漫画になるため、つまらなくなるため注意しておきましょう。
変化しないモノを挙げると、
- 性格
- 知能
- クセ・しぐさ
- 欲求
等が挙げられます。性格は以前の記事でも書きましたが、変化するのは容易ではありません。飽き性だったり、凝り性だったり、怒りっぽい、やさしい等ありますが、どれも急に変わると不自然です。
知能は、知識とは区別しています。知能は、要領の良さや、理解力、記憶力などの事です。これも生まれ持った性質と言えるでしょう。キャラクターが急に要領が良くなったり、記憶力が良くなって問題を解決すると、ご都合主義的な展開と思われて、興醒めされてしまいます。
欲求はセントラルクエスチョンが解決され、欲求が満たされると消失します。それまでは不変のモノ、もしくはさらに強まる性質があります。
作者は主人公のことが大好きなはずです。その好きな気持ちを爆発させて、主人公を描きましょう。読者にもその爆発が伝わるでしょう。
提示する事柄
オープニングイメージでは、主人公やその周りの登場人物、場所や時代が分かる事柄を描きましょう。絵でそれらを表現するのがベストです。文字はあっても短い説明やセリフに抑えましょう。
最初から文字が多くなると、読む気が失せてしまいます。パッとみて、いつの時代の、どの場所で、誰が主人公で、どんなジャンルか、というのが分かってもらえれば良いです。
時代は
- 服装
- 髪型
- 小物
等を描くとそれだけで理解してくれます。
場所は
- 日常系漫画であれば家であったり
- 部活物であれば競技場や部室であったり
- 中世であれば城であったり
その漫画のジャンルを象徴する場所をまずはじめに描くと良いです。
テーマの提示(5%)
テーマというのは「主題」です。中心となる問題です。セントラルクエスチョンとは、また違った問題です。
テーマ(主題)の例として
- 生きる意味とはなにか?
- 異性同士での友情関係はありえるのか?
- 命の価値は人と虫で同じなのか?
- お金持ちになることは良いことのなのか?
等、人々によって様々に議論されたり、答えが決まっていない事柄がテーマとなりえます。
しかし、作者には答えがあります。それを漫画で伝えるのです。
答えのない問題に、答えを出すと反発があるかもしれませんが、同じくらい賛成があるかもしれません。漫画というのは読んでくれた人の3割程度が感動してくれればそれで大成功です。反発を恐れず、賛同者に向けて描きましょう。
こそっと主張、アンチテーゼも示唆
「人生に友人は必要か?」というテーマに対して、作者は「Yes」だったとします。
テーマが「友人」をメインとして扱っているため、主人公とその友人を中心として漫画は展開していくことになります。しかし、主人公はテーマが何であるかは知る由もありません。
主人公はその漫画の中で、与えられた性格と欲求のままに、自由に動き回る存在だからです。
そして、アンチテーゼ(主張を否定する理論)も必要となります。つまり、「人生に友人なんて要らない」という理論です。それは主人公がそう思っていたり、悪役がそれを押し付けてきたり等、なんらかのアンチテーゼを冒頭で示唆できれば良いでしょう。
作者の主張と、それに対するアンチテーゼを漫画の中で激しく戦わせ、最後は作者の主張が勝つことで、主張の正しさを証明することになります。
斬新さは不要
テーマ(主題)はシンプルなもので十分です。そして、普遍的なものが良いでしょう。変にひねると、読者は離れていきます。
「必殺技は、かめはめ波のような飛び道具ではなく、ハンマーで叩くような力技のほうが良いと思わないか?」
というテーマだったとします。テーマが日常的に考えるような話でもないため、ピンと来ません。そして、普遍的なものではなく、個人の好き嫌いの話に焦点が定まっており、読者の興味は薄れていきます。
理解と賛同
テーマを定めたのであれば、作者はそのテーマについて詳しく勉強しましょう。
経済成長が是か非かというテーマであれば、経済成長してきた歴史や、それによってもたらされた功罪を深く調べましょう。
経済成長したことにより、生活は豊かになったが、貧富の差が広がり、他人と比べることが増えて幸福度が減じてしまった。そして、深刻な環境問題も引き起こされた。
等、経済成長の良い面、悪い面を把握しておきましょう。
そして、是か非のどちらを主張するにしても、作者自身がその主張に賛同することが大切です。よく調べ、理解した上で、「こちらが良い!」、とはっきりと賛同できるものをテーマとして掲げましょう。
セットアップ(1~9%)
セットアップは「組み立てる」等の意味がある言葉です。漫画を展開していくのに必要な材料(キャラクターや事件、事情等)を集めて組み立てるというイメージです。
組み立て方が下手であったり、材料が悪いと、組み上がったモノもまた出来が悪くなります。これからの展開が面白くならない可能性があります。
登場人物全員が登場(もしくは存在がほのめかされている)
セットアップが終わるまでには、メインプロットの登場人物をすべて登場させて、個性を発揮させておきましょう。個性を発揮させることが、そのキャラクターにとって最高の説明になります。
高飛車な貴婦人であれば、壮麗な洋館のソファーで座らせます。そのキャラクターに合った場所に配置すると、それだけでキャラクターが勝手に動き出してくるでしょう。
手には高級ワインを持ちながら、血統書付きの犬を可愛がり、跪いた従者には冷たい口調で命令を下す…等、適切な場所にキャラクターを配置するだけでそのキャラクターの個性が自然と際立ちます。
セットアップで登場しなかったキャラクターも、その存在は示唆されるようにしておきましょう。「私には姉がいるんだけど」や「元プロ野球選手の友達がいてさ」等、途中から登場するキャラクターの関係性や特徴となることをまじえて紹介しておきます。
そうすることで、違和感なく途中から登場することが可能ですし、示唆された人物が、後に何かしでかすキープレイヤーなのではないかと、読者に期待させる効果もあります。
オープニングイメージで説明しきれなかった主人公の特徴や、時代、場所があれば、セットアップが終わるまでにさらに詳しく表現すると良いでしょう。ただし、説明が長くなり過ぎないように注意します。
各キャラクターの創り方についてはこちらの記事をご参照ください。
きっかけ(11%)
きっかけは「事件」と考えればいいでしょう。そのスケールの大小はありますが、主人公にとってはとても重大な事件がおこります。それは世界大戦かもしれませんし、彼氏に振られたことかもしれません。
どちらにしろ、今まで歩んできた人生がひっくり返るような衝撃を、主人公は受けることになります。主人公の人生が一変する「きっかけ」がここでは生じるのです。
その事件は「セントラルクエスチョン」と深く関係しています。その事件を解決することは、セントラルクエスチョンを解決することと同じ意味と考えても良いでしょう。
つまり、「きっかけ」の部分において、主人公の人生が変わり、セントラルクエスチョンが提示されます。
「ずっと仲が良かった彼氏に、ある日突然、別れを告げられた」というのが「きっかけ」になります。
彼氏に依存していた主人公は、パニックになります。そして今までの人生すべてが無価値なものと錯覚してしまいます。
この時、主人公の欲求は何でしょうか?復讐でしょうか?再び愛されたい、でしょうか?他の男に愛されたい、愛したい、でしょうか?
ここでテーマを良く思い出しましょう。作者が、「理不尽な理由で振られた場合、復讐しても良いか?」をテーマに掲げ、復讐することに賛同しているのであれば、主人公の欲求も「復讐」に設定しておくのが無難です。
まとめ
【起承転結の「起」】のまとめです。
- 起爆!…一瞬で読者の心を揺さぶるイメージ!インパクトのある事件やキャラクター!
- 変化前!…変化する前の特徴を表現!変化すればセントラルクエスチョンを解決!
- 反発覚悟!…テーマは反発を覚悟して!自分が正しいと思ったことを理論づけて主張!
次回は、【起承転結の「承」。平坦なパートにしていませんか?】です。宜しくお願い致します。