【漫画の描き方⑦】起承転結の「結」。感動の嵐を呼び起こせ!

ヲヲクラゲ

こんにちは、漫画原作者のヲヲクラゲです。
今回は起承転結の「結」について、私の経験と知識を用いて、新しい視点からご紹介します。

 

「結」は、漫画が終了するパートになります。「終わりよければ全て良し」とはシェークスピアの戯曲でもありますが、日常的にも良く使われますね。

これには「ピーク・エンドの法則」というのが関係していると思います。これは、ダニエル・カーネマンというノーベル賞を受賞した、心理学者・行動経済学者が提唱した法則です。

 

  • ピークは絶頂という意味で、感情の絶頂時(痛い、苦しい、楽しい、悲しい等のピーク)のことです。
  • エンドは結末という意味で、物事や経験が終わった時の感情の具合です。

 

一連の物事や経験において、ピークとエンド「以外」で起こった感情というのは、ほとんど印象に残らないと言われています。逆に言えば、ピークとエンドの時の感情のみが、印象として残ります

 

つまり、漫画を読んだ読者が、最も面白い(感情が揺さぶられた)と思った部分と、エンディングの部分「だけ」が読者の印象に残ります。

 

基本的には、漫画は「結」で一番盛り上がるように出来ています(ピーク)。そして、終わりは当然「結」にあります(エンド)。ということは、漫画は「結」だけが面白ければ、面白いと評価される場合があるということです。(最後まで読んでくれればですが…)。

 

「結」はとても重要なパートということになりますね。

 

では一体、漫画の最後の締めくくり方はどうすれば良いのでしょうか?最後まで読んでくれた読者に感動を与えたいけど、なにか良い方法はあるのでしょうか?

 

まずは「起承転結」の「結」を大まかな流れでイメージして、次に、ブレイク・スナイダーのビートシートを用いて、細かく分解して描いていくようにしましょう。

いつものように、私が作ったネームノートを参照しながらご説明します

全48ページ。ネームのコツを書き記したノート。

 

結は「結実」

自著。画像をタップで読めます。

 

起承転結の「結」の本来の意味は、漢詩でいうところの、「結句」にあたり、適宜にフェードアウトしていきながら深い意味をもたらすことです。

しかし、これでは何を描いて良いのか分からないと思います。

私が考えるには、「結」は「結実」の意味で漫画を構成して良いと思います

 

「結実」というのは、草木が実を結ぶことです。主人公が努力して蒔いた種が、最後の最後で実を結ぶ、という風に考えます。

これは、「種」という変化前のちっぽけな姿から、「実」という甘く大きな果実へと成熟する「変化」を表しています。

 

また、テーマがここで結実することでもありますテーマが最後になってもまだ種のままで、何になるのか分からず、作者が主張したいことが読み取れなかったとしたら、その作品は失敗と言えるでしょう。

 

ヲヲクラゲ
「結」では、主人公が努力したこと、悩んだこと、苦しかったこと、学んだことが、最後には報われます。そのイメージを持って、「結」を描きましょう。そして作者が主張したいことも「結」で読者に伝わるようにしておきます。

フィナーレ(77%~100%)

自著。フィナーレの1シーン。画像をタップで読めます。

 

ここからは、ブレイク・スナイダーのビートシートを参考にしながら、「結」のパートを分析していきます。

「結」のパートは

  • フィナーレ(77%~100%)
  • ファイナルイメージ(100%)

※()内の%は漫画のページ数に対してのパーセンテージを意味しています。

となっています。

順にご紹介します、と言ってもたった2つですね。1つ目、「フィナーレ」についてです。

「フィナーレ」は「最後」「終幕」という意味がありますね。つまり、ここで漫画は終わります。

 

後味が悪くならないように、主人公がすべてを解決し、すべてに勝利し、作者はテーマの主張が正しいことを証明する必要があります。

 

すべてにおいて勝利

フィナーレでは主人公はすべてにおいて勝利します。

フィナーレ」では、まず何よりも「セントラルクエスチョン」を解決しなければなりません。「最強の敵」を主人公の力で打ち砕くのです。

また、サブプロットでも勝利します。多くの場合はサブプロットはラブストーリーです。決裂していた二人は、以前よりも強い愛で結ばれます。

 

作者が掲げていた「テーマ」も、作者の主張が正しいと証明されます。証明のためには、証明を否定する理論(アンチテーゼ)をことごとく論破する必要があります。

論破するためには、主人公が「セントラルクエスチョン」を解決することです。そうすることで、「テーマ」の主張が正しいと証明されます。

つまり、事前に、「セントラルクエスチョン」と「テーマ」は密接な関係に設定しておく必要があります

物語が進むにつれて、2つの関係がズレてしまっていないか、注意しておきましょう。「セントラルクエスチョン」も「テーマ」も作中は常に不変であるべきなのです。

 

また、すべてに勝利するためには、それ相応の理由を考えましょう。今までの伏線とサブプロットを活かして、主人公が勝利に値する人間であることを、読者に納得させる理由を選びます。

 

それでは、「フィナーレ」を、ゴールキーパー漫画を例にして示します。前回の記事の続きとなります。

サンプル「フィナーレ」

すべてを失った高校3年生のゴールキーパーの主人公。

ライバルの転校生は主人公より実力があった。それだけでなく、転校生の親は、政治家兼サッカー協会の幹部であり、部活の全権を転校生に握らせていた。主人公が試合に出られるチャンスは皆無に思われた。

主人公はチームメイトにも愛想を尽かされ、彼女にも振られた。それでも、「人一倍の努力を続ければ願いが叶う」と信じて、学校のグラウンドで毎日ひとりで練習に明け暮れていた。彼女にも毎日一方的にメールを送り続けた。

9月、大会が始まった。当然のことながら主人公の出る幕はなかった。主人公はそれでも会場に足を運んでいた。転校生の率いるチームは強く、順当に勝ち上がっていった。

11月、遂に東京都予選を突破した。主人公は会場でそれを静かに見守った。

来年の1月から全48校のトーナメントが始まる予定になっていた。

大晦日。

元チームメイトたちはカラオケで遊び、集団で練り歩いていた。高校がその近くにあった。もう日も暮れて暗い。そして異様に寒い。雪もちらついていた。

放課後になると、いつも主人公がグラウンドで練習している姿を彼らは帰宅しながらも、横目で見ていた。

大晦日の今日もいるのだろうか?彼らは興味があった。

彼らがグラウンドに入ると、主人公はただ一人、練習に励んでいた。

彼らは思わず立ち止まり、その姿を見ている。

チームメイトのひとりが声をかける。

「パス」

主人公は驚いて振り返る。

「へい、パス」

主人公はチームメイトに喜んでボールをパスする。

そこからは、みんなが混じってサッカーをした。暗くてボールも良く見えなかったが、笑い声がグラウンドに響き渡る。

みんなサッカーをするのが楽しくて仕方なかったのだ。

主人公はチームメイトに謝った。そして、まだ試合に出ることを諦めていないと語る。

自分の夢は

「日本最高のゴールキーパーになること」

真っすぐな瞳でチームメイトに語った。

 

「そうだな」

「俺たちもすまないことをした許してくれ」

仲間は、本当は主人公のことが大好きだったのだ。

 

次の日からは仲間たちとともに練習を行った。グラウンドの片隅でギュウギュウ詰めになりながらも、練習は白熱していた。グラウンドには雪が降っていた。

転校生チームは準決勝で勝利した。主人公と元チームメイトたちは会場で観戦し、またグラウンドに戻って練習をした。やはり雪が降っていた。

 

残された試合はあと1試合、決勝のみだった。対戦チームは選手全員が寮で生活し、スパルタで鍛え上げらたチーム。それでも、実力は転校生チームのほうが上回っているだろう。

 

決勝戦当日。寒い冬が続いていた。

返信のない元彼女に、この日もメールを送った。

「今日がサッカーの最終日。決勝戦。最後まで僕はあきらめない。日本最高のゴールキーパーになる」

元チームメイトたちと会場に足を運ぶ主人公。

 

転校生チームは美しい芝の上でアップを開始していた。転校生の親もその近くにいて、激励していた。

そして試合開始の時間になる。

しかし、対戦チームの姿が見えない。

実は、対戦相手の選手は全員が食中毒にかかっていたのだ。寒い冬に多発するノロウイルスによる集団感染だった。

 

試合は中止となり、不戦勝で転校生チームの優勝が決定した。

会場は異様な空気に包まれた。観客は試合を観たかったが、どうすることもできない。やり場のないため息が、会場中で聞かれた。

転校生もまた不完全燃焼だった。最後は気持ちよく勝って終わりたかった。そこで、父親にお願いをする。あそこに元サッカー部の連中がいる。2軍みたいなものだが、あいつらと紅白戦をさせてくれないか。スカッと勝って終わりたいんだ。

父親は可愛い息子の提案を受け、急遽そのように取り計らう。

主人公はその報を聞いて、最大のチャンスを手に入れたことに気づく。

転校生にリベンジできるチャンス。勝利して仲間たちと喜びを分かち合える最後のチャンス!

 

そして、実現した異例の決勝戦。新しくなった国立競技場で開催された紅白戦。

転校生チームの猛攻が際立っていたが、スコアは拮抗していた。

それは主人公の活躍によるものだった。彼の驚異的なプレーにより、相手のシュートを幾度となく止めたのだ。イタリア代表ゴールキーパーに教わった技術をいかんなく発揮していた。観客は主人公の虜になっていた。

後半終了のホイッスルが鳴っても決着がつかなかった。

0-0。主人公は1点も譲らなかった。

 

そして、PK戦が始まる。

PK戦では流石の主人公もゴールを許した。すでに疲労困憊だったのだ。一方で余力の残る転校生は、シュートをすべて防ぎきっていた。

 

主人公チーム✖✖✖
転校生チーム〇〇

 

次に転校生チームが点を決めれば、主人公チームが負ける。

主人公も一瞬諦めかける。その時、会場からイタリア語の応援が聞こえた。彼女が応援してくれているのだ。

「諦めないで!あなたの努力は私が誰よりも知っている」

「私はあなたの応援のおかげで特待生として合格した!その通知をもらった日、あなたに会いたいと思って、日本へ来たの!」

「あなたがやってきたことはすべて正しい!」

主人公の目の色が変わる。イタリア語で発せられるその言葉の意味がすべて分かる訳ではなかったが、そんなことはどうでも良かった。彼女が約束通り、自分のために日本まで応援しに来てくれている。

それだけで疲労は吹き飛び集中力が研ぎ澄まされる。

 

彼は燃え上がった。何もかもがスローに見える。

シュートを防ぐ。

会場が盛り上がる。奇跡の大逆転を観衆が期待し始める。

チームメイトも奮起して、得点を重ねていく。

その後も主人公は何連続もセーブを繰り返し、転校生にプレッシャーを与える。

 

主人公チーム✖✖✖〇〇〇✖✖〇
転校生チーム〇〇〇✖✖✖✖✖

 

主人公チームがリードした。

次に主人公がシュートを防ぐと、主人公チームの勝利が決定する。

キッカーは相手ゴールキーパーだった。転校生である。

唸りを上げる渾身のシュートは、主人公のオリジナル技で、かろうじてはじき返す。

主人公チームが勝利した。

 

主人公とチームメイトは雄たけびを上げて喜び、

観客は総立ちで大歓声をあげ、主人公に惜しみない賛辞を贈る

彼女は主人公に抱き着き、キスをする

転校生たちはへたりこみ、茫然自失となり

彼の親もまた苦虫を噛み潰したような顔をして、会場から一目散に退出する

 

主人公の一途な努力と愛は実り、彼の活躍は各メディアでも取り上げられ、日本最高のゴールキーパーと称えられた。

このようになります。決勝戦の舞台で、転校生を直接下すことにより、「セントラルクエスチョン」である日本最高のゴールキーパーになれるのか?を解決しました

特訓の成果と、仲間たちの奮起、サブプロットである彼女の出現により、転校生チームとその親は一掃されました。

テーマである「人一倍努力し続ければ願いは叶う」も、「セントラルクエスチョン」を努力によって解決したため、それを証明することが出来ました

 

ファイナルイメージ(100%)

自著。ファイナルイメージの1シーン。画像をタップで読めます。

 

「フィナーレ」の最後の場面を「ファイナルイメージ」と言います。漫画の最後のページですね。ここで描かれる主人公と周りの状況は、「オープニングイメージ」と対比的になります

オープニングイメージ」での主人公は、まだ試合に出たこともない不安の残るゴールキーパーでした。チームメイトの信頼もなく、彼女もいません。能力も低いですし、精神的にも弱いです。

 

それが、物語が進み、酸いも甘いも経験して、悟りを開き、努力して結果を出し、堂々とした姿となって祝福されています。「オープニングイメージ」と真逆の人物と状況になっているのです。

 

国立競技場の大歓声に包まれて、彼女に寄り添い、チームメイトと喜びを分かち合い、自信に満ち溢れて手を挙げる王者の姿があるのです。

この「オープニングイメージ」から「ファイナルイメージ」への「変化」が読者を感動させます

 

ヲヲクラゲ
ここに至るまで、主人公は葛藤を繰り返し、苦難に立たされ、絶望し、命を捨てようとさえしました。その転落を知っているからこそ、最後の1ページに描かれる成長に共感し、感動できるのです。

 

 

まとめ

自著。画像をタップで読めます。

 

【起承転結の「結」】のまとめです。

  1. 結実!…すべての苦労と努力が形になって現れ、主人公は報われる!
  2. 一掃!…悪役はすべて排除!きれいさっぱり読後感良く終了!
  3. 変化後!…オープニングイメージとは真逆の主人公と周りの状況!それは成長の証!

 

ヲヲクラゲ
あくまでも私独自の観点からの漫画講義ですが、ほんの少しでも皆様のご参考になれば幸いです。

参考書籍はこちらを参照ください。

 

次回は、【面白さ大幅UP!漫画の演出方法とテクニック!】です。宜しくお願い致します。