メボソムシクイ。50年来の謎が解かれる!その識別方法を大公開!

チチクラゲ
押忍!日本野鳥の会で徳島県支部長を務めていた、チチクラゲと申します。

今回はメボソムシクイです。

メボソムシクイとその類似種の鳴き声の秘密や、名前の由来についても語っております。

50年前からのある疑問がいかに解決したかも書いております。

良かったら読んでみて下さい!

 

メボソムシクイとは

メボソムシクイ・1983年5月29日・三好市東祖谷・剣山
メボソムシクイ・1983年5月29日・三好市東祖谷・剣山。撮影チチクラゲ

メボソムシクイ(ムシクイ科)Phylloscopus xanthodryas は、全長13cmのウグイスに似た小鳥です。

夏鳥として、九州以北の亜高山帯に渡来します。渡りの時期には平地の林でも見られます。

 

メボソムシクイの識別方法

メボソムシクイなどムシクイ類は互いに姿かたちがよく似ているので識別には細心の注意が必要です。

ムシクイ類は外見が良く似ている。参考文献:ムシクイのおもな種類〔標本画〕
©森上義孝

 

そこで手掛かりになるのが鳴き声、特にさえずりです。

メボソムシクイは、4月下旬から5月下旬に渡来します。その頃は平地の林でも「チョリチョリチョリチョリ」と4拍子で鳴くそのさえずりが聞かれます。

このさえずりは「銭取り銭取り」と聞きなすと、覚えやすいです。

四国では標高約1,600mから上の針葉樹で繁殖するので、夏季の剣山つるぎさんなどではよく耳にする鳴き声です。

メボソムシクイ(鳴き声と3次元声紋:日本野鳥の会)

メボソムシクイの鳴き声。「チョリチョリチョリチョリ」と鳴く。

コムシクイとオオムシクイ

ところが、このさえずりとは別に、5月下旬から6月上旬に「ジジロ、ジジロ」と鳴くメボソムシクイそっくりの小鳥がやってきます。

このムシクイは、これまで「亜種コムシクイ」Phylloscopus borealis であろうといわれてきました

コムシクイはユーラシア大陸からアラスカまでに広く分布している種です。

私は52年前(1969年)ロシアを旅行したことがあります。その際にモスクワでロシアの野鳥の声を収録したレコードを買って帰りました。

コムシクイのロシアレコード
1969年にロシア旅行した際に購入した野鳥のさえずりを収録したレコード。撮影チチクラゲ

 

レコードにはロシア語でコムシクイと書かれていましたが、その中のコムシクイのさえずりは「ジィジィジィジィジィジィ」と鳴いており、日本のコムシクイの声である「ジジロ、ジジロ」とはずいぶん異なっていました。

日本とロシアのコムシクイの鳴き声が違うのはなぜなのか?

 

そこで当時野鳥の声録音の第一人者であった蒲谷鶴彦さんにお会いした際、レコードを聴いてもらってこの疑問点について見解をお聴きしました。しかし、私が疑問に思っていることについては話がかみ合わず、理解して頂くことは出来ませんでした。

私は、日本でコムシクイPhylloscopus borealisと呼ばれる鳥が、ロシアのコムシクイPhylloscopus borealisとは別種であることを理解してほしかったのです。

以後、半世紀にわたって私はずっとこのさえずりに疑問を抱いてきました。

 

ところが、最近になって、ようやくこの疑問が解けました。

これまで日本の鳥類学者がコムシクイであろうと考えていた声の主が、実は「オオムシクイPhylloscopus exminandus」だったことが判明したのです。

オオムシクイ・鳴門市孫崎-2011.10.7.撮影チチクラゲ

 

蒲谷鶴彦さんでもピンとこなかったように、メボソムシクイ類のさえずりはそれまで十分に研究されておらず、コムシクイとオオムシクイのさえずりは混同されていました。

しかし、最近になってバードウォッチャーの間では、さえずりが違うメボソムシクイがいるのではないかと、噂になっていました。

そこで、齋藤武馬さんという方が、さえずりを録音したり、DNA解析して回ったところ、メボソムシクイは、コムシクイ・オオムシクイ・メボソムシクイそれぞれが「別種」であることが分かったのです(今までは種メボソムシクイの亜種としていました)。

そして、3種ともそれぞれさえずりが異なることが判明しました。
(※参考文献:見た目は同じに見えても、「さえずりの違い」で新種発見! メボソムシクイの秘密 https://www.yamakei-online.com/yama-ya/detail.php?id=472)

 

結果として、私がロシアで買ったレコードの表記「コムシクイ」は正しかったのです。コムシクイは「ジィジィジィジィジィジィ」と単調にさえずります。

一方で、5月下旬から6月上旬にやってきて、「ジジロ、ジジロ」と3拍子でさえずるのは、「コムシクイ」ではなく、「オオムシクイ」であることが分かったのでした。

今日、ようやく決着がついたのですが、私がこの疑問を持ち始めてからすでに半世紀にもなります。なぜ、これほど長い年月がかかったのか不可思議です。

コムシクイ(鳴き声と3次元声紋:日本野鳥の会)

コムシクイの鳴き声。「ジィジィジィジィジィジィ」と同じ音を繰り返す。

 

オオムシクイ(鳴き声と3次元声紋:日本野鳥の会)

オオムシクイの鳴き声。「ジジロ、ジジロ」と3音節のリズムでさえずる。

 

メボソムシクイの名前の由来

メボソムシクイ(スライドから複写)・1983年5月29日・三好市東祖谷・剣山
メボソムシクイ・1983年5月29日・三好市東祖谷・剣山。撮影チチクラゲ

メボソムシクイの漢字名は「目細虫喰」です。しかし、この鳥の目は決して細くありません

『鳥の名前』(注1)によると、「細い過眼線が目立つのでこの名前となった」とあります。(過眼線とは、目を通過する暗色斑です)

しかし、類似種のセンダイムシクイやエゾムシクイに比べても、メボソムシクイの過眼線が特に細いとは思えません。

他のムシクイたち。参考文献:ムシクイのおもな種類〔標本画〕
©森上義孝

 

『山渓名前図鑑・野鳥の名前』(注2)によると、メボソムシクイは「江戸時代にはヤナギメジロという異名があり、この鳥の細長い眉線をシダレヤナギなどの細い葉に見立てた命名と思われる」とあります。

確かにメボソムシクイには黄白色の眉斑があり、これが類似種のセンダイムシクイなどの眉斑に比べると、やや細い傾向にあります。

ただし、眉線が細長いので目も細いという説には無理があるように思います。

(注1)大橋弘一 (2003) 『鳥の名前』(東京書籍)
(注2)安部直哉・叶内拓哉(2008)『山渓名前図鑑・野鳥の名前』(山と渓谷社)

チチクラゲの新説!メボソムシクイの名前の由来

メボソムシクイ(1)さえずり(富士山五合目付近) - Japanese leaf warbler - Wild Bird - 野鳥 動画図鑑

私はメボソムシクイの眉斑が類似種に比べやや細いことから、「眉細:マユボソ」が「メボソに転訛したものと考えています。

また、ヤナギメジロの異名についても、ヤナギ葉に似た眉線とは関係なく、この鳥が渡りの時期にヤナギの木でよく見られることに由来すると考えています。

ムシクイ科にはヤナギムシクイ(英名 Two-barred Warbler)  やキタヤナギムシクイ(英名 Willow Warbler)など、ヤナギを好む習性に由来すると思われる種名があります。

まとめ

メボソムシクイについてのまとめです。

  1. 全長13cmのウグイスに似た小鳥。夏鳥として、九州以北の亜高山帯に渡来する。
  2. 「チョリチョリチョリチョリ」と4拍子で鳴く。「銭取り銭取り」と聞きなすと、覚えやすい。
  3. コムシクイは「ジィジィジィジィジィジィ」と同じ音を繰り返してさえずる。オオムシクイは「ジジロ、ジジロ」と3音節のリズムでさえずる。
  4. メボソムシクイの名前の由来:諸説あり。「細い過眼線が目立つのでこの名前となった」や、「江戸時代にはヤナギメジロという異名があり、この鳥の細長い眉線をシダレヤナギなどの細い葉に見立てて命名された」等がある。
  5. チチクラゲが唱える名前の由来の新説:眉斑が類似種に比べやや細いことから、「眉細:マユボソ」が「メボソ」に転訛した。

次回はスズメです。

チチクラゲ
お楽しみにっ!